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SilverRainファンサイト。船長(故)とその妹によるモーラット虐待系ブログ……ではないはず。
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それは少し昔の話。

「ねえ、コネコ」
「ンー?どうしたハルカ」

カオナシ結社で、何をする事も無くだらだらとしりとりなんぞをして過ごしていた二人の、ちょっとした会話が始まりだった。

「兄が、この学園にいるらしいの。クラスメイトがそれっぽい人を見たって」
「……フーン。で?会いに行かないのカ」
「今更会ってどうするのよ。それに、違ってたら」
「アーアーもうイイ。意気地無しの言葉は聞きたかないニャー」

皮肉げな笑みを浮かべる小学生に、容赦無く掴みかかる中学生。
体格差で勝負はほぼ決まっているものの、勿論本気でケンカをしている訳ではない。

「このっ!」
「いった、今本気だったロ!?チクショー、猫の爪ナメンナー!」
「傷が残ったらどうするのよ馬鹿コネコ!?ああ、逃げるなっ」

本気でケンカしている訳ではない、と思う。

そんなどたばたで、話の内容もうやむやになった後。
こっそりと猫になり結社を抜け出すコネコがいた。
遥の兄。その情報は真実か否か?情報屋として、知っておくに越した事は無い。
それに、少し面白そうでもある。

「マ、しゃーないナ」

好奇心と友情を秘めて、コネコは向かう。


――

まずは事実の確認を行う。
学園の各キャンパスに存在する図書室の情報端末。
学生で、「能力者」であればここから呼び出されるリストに間違い無く登録されている。
遥が能力者である以上、兄も能力者である可能性は非常に高い。

「……しっかし、個人情報の保護も何も無いヨナ、この学園」

タッチパネル式の端末を、踏み台に乗って操作するヒネた小学生。手馴れた様子で名簿を検索していく。

まずは名前から。
幸い、遥の名字は非常に変わっている。もし馬鹿正直に登録しているのなら、これでヒットするはずだ。

「ソンナ馬鹿な話ネーヨナー。フツー、偽名使うって。俺だってソースル」

ぴ。ぴ。ぴ。

<検索結果 2件>

「あ」

どうやら遥の兄は馬鹿らしい。
違う。馬鹿正直らしい。

あらかじめ聞き出しておいた名前とも完全に一致する。
間違い無い。誰かが名前を騙っているのでは無い限り、この男が遥の兄だ。

「ま、イイカ。手間省けたニャー」

人相と在籍するキャンパスを確認し、手元のメモに書き取る。
特徴的な前髪のハネ具合。まず、確実だろう。

情報収集を終え、検索結果を消去したコネコが振り向くと――

件の人物が、数冊の本を抱えて貸し出しカウンターへ向かう所だった。

「ああ。こっちの図書室には在庫があると聞いてな……」

図書委員と話し込んでいるその男を呆然と見つめるコネコ。
偶然は続くらしい。と言うか、こんなに人探しは簡単だったのだろうか。

「ん?」

視線に気付いたのか、振り向いた男がコネコの方へと視線を向ける。
こういう時、下手に視線を外してはいけない。あくまでさりげなく、たまたまそちらを向いていたように装うのだ。
しばらくの間の後、首を傾げながら本を持ち立ち去る男をぼんやりと眺め、コネコは次の行動に移った。

素行調査だ。


――


後を追いかけるのは意外と簡単だった。
図書室では視線に気付いた様子を見せたが、普段はそう神経質では無いようだ。
何度か危ない場面(高等部に居る小学生を不思議そうに眺める一般生徒とか)に出くわしたが、一向に気付く様子を見せない。
これは鈍感のレベルだ。

「張り合いの無い尾行だヨナ、マッタク」

やがて玄関を出て、男の向かう方向を確認するとコネコは物陰へと移動する。

猫変身。
暗灰色の子猫へと、その名の通り変化する。
ゆっくり周囲を見渡し、問題の無い事を確認すると、気紛れな歩き方で再び尾行を再開した。


向かう先は部活棟。
名簿を調べた時にあった所属結社の一つ、「開巻劈頭」だ。
流石にドアから入る訳には行かないので、隣の棟から窓越しに内部を覗き見る。
特に変わった様子は無い。
赤い髪の男、黄色い髪の男、落ち着いた感じの女……高校生同士の仲良しグループ、と言った風情の集団が、談笑している。

数十分後、再び出てきた男の後を急いで追いかける。
次に向かう先は恐らく、もう一つの結社「P.M.ガーディアンズ」だろう。
コネコは観察場所のチェックの為、先回りする。

「おや?」

目の前を走り去る猫を目に留めた男が、少し眉を上げた。


――


P.M.ガーディアンズ。
幼い少女が結社長を務める、私設の風紀グループ。
幅広い年齢層が集まる、比較的大きな結社だ。
結社の規模に合わせて、棟も広い部屋が割り振られている。
まず、窓の数と角度を確認する。
続いて、その部屋が何の目的で使用されているか、男が入りそうな部屋の当たりをつける。
短時間で出来る下調べは全て完了した。最適の位置から、最大限の視野を手に入れたコネコは、まるで本物の猫のように舌なめずりをし観察を開始した。


「デスの!それで、それで、虎さんがわーって……」
「ふむ」
「どうしたんデスの、船長様?」

浮かない顔をしている男に声を掛ける、結社長の少女。

「……いや。済まない、今日は用事があったんだ。顔を出しに来ただけなんでね、失礼するよ」

少女は残念そうな表情を一瞬見せたが、また他の結社メンバーとの歓談へと戻っていく。
そんな会話を読唇術で理解しつつ、コネコは首を傾げた。
自分の存在に気付いている節は無かったはず。少なくとも、尾行されていることには。
少しの間の後、男が結社から出てきた。
歩きながら顎に手を当て、何かを考える仕草を見せる。
次に財布を取り出し、中身を確認した。
用事というのは、買い物らしい。
学園から程近い商店街へと向かう男の後を、コネコはゆっくりと尾行していった。


――

小さなスーパーに男は入っていった。
スーパー内に猫は入れない。……と、すれば。出てくるのを待つか、解除して人間の姿になるか。
ここで問題となるのは一度図書室で見られているという事実だ。
よって、コネコは前者を選ぶ事にした。

じっと待つ。
猫の見た目は、こんな時も役に立つ。
普通の人間がスーパーの前でぼーっと突っ立っていれば怪しまれるが、猫であれば隠れられる場所は多いし、立ち止まっても気にされる事はない。
普通の猫が、時折あらぬ方向を向いたまま固まっているのを見かけるだろう。
それは当たり前の光景だ。誰一人、怪しむ事はない。

大抵は。

「あ、にゃーにゃー!」
「ダメでしょミーちゃん、ノラ猫なんか触っちゃ」
「にゃーにゃー!あそぼー!にゃー!」
突然、背後で声がした。
と思えば次の瞬間抱きかかえられていた。自分よりも幼い、幼稚園くらいの少女にである。
危なく悲鳴をあげそうになったが、自分が猫だという事に思い至りすんでのところで留める。
人の言葉を話す猫は不味い。色々と。
軽く暴れてみたものの、少女は中々離そうとしない。傷を付けるのも可哀想だし、親が開放してくれるのを待つ事にした。無論、目線はスーパーを向いている。

そうこうしている内に、男がスーパーから出てきた。
片手にビニール袋。内容は……パンと牛乳パック、と言ったところか。何かの缶詰も見えている。
やっとの事で開放されたコネコは、恨みがましそうにこちらを見ている少女に舌を出して後を追いかけた。

「ねえママー。今のニャーニャー、わたしにあかんべーしたよ」
「そうね。もう、帰ったらちゃんとお風呂入らなきゃダメよ?」


――


やっと、男の自宅へ着いた。
何か長かった気がするが、ここがゴールだ。
ごくごく一般的な、少々古い学生アパートの一室……恐らくは全て学園の生徒が住んでいるのだろう。
男が階段を上がるのを眺め、コネコは考える。
今日はここまで、だろうか。
流石に部屋まで上がり込む事は不可能だろうし、部屋を窓から覗く位が限界だろう。
それに、自室での行動を探ったところで何か得られるものがあるとは思えない。少なくとも今は。

そう考え、踵を返したところで男が再び階段を降りてこちらへ向かってきた。手には先程の袋と、小皿を持っている。
コネコは野良猫の振りをし、そ知らぬ顔で脇道へ隠れようとする。


「おーい。そこのノラ」

ぴたりと動きを止めるコネコ。まさか、気付かれた?
確かに一度見咎められはしたものの、それは人間の姿だ。この格好を人間と結びつける事はまずできないはず。幾ら能力者であり、前知識として知っていたとしてもだ。
それに彼は今「ノラ」と言った。大丈夫、バレていない。

「ノラ?……ふむ。猫を呼ぶにはどうすればいいのだったか」

顎に手を当て、考える仕草。
暫くの間。固まったままのコネコと、首を捻る男。

「ダメだ、思いつかん。とりあえず置いておくから、気が向いたら食べるんだな。他の猫に取られるなよ?」

そう言うと、小皿に牛乳を空け、缶詰――キャットフードだ――を開けてその脇に置く。

「ずっと付いて来ていたから、気になったんでな。俺がメシをくれると思ったのかは知らんが、もしそうなら期待に応えないと」

うむうむと一人頷く男。どうやら、猫になってからの尾行は気付かれていたらしい。どこからかは分からないが。

「では、俺は戻るとしよう。それじゃあな、ノラ」

かんかんと音を立て階段を上がっていく男。

置かれた牛乳を舐めた。少しだけ甘く感じた。

「……フン」


――

次の日、結社【カオナシの集い】にて。

「ねぇコネコ。ボク……いえ。私、どうすればいいと思う?」
「ア?まーたその話かヨ」
「何よ!?こっちが悩んでるのに!」
「アーアー怒んナ怒んナ。オレが見たトコロ、お前の兄貴はダナ」


「鋭くて、鈍感な馬鹿野郎ダ」


「は?どういう事よそれ」
「マ、あっちからのアプローチは期待すんナ。頑張れハルカー」
「何よそれー!ちょ、ちょっと!待ちなさいよー!?」
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