SilverRainファンサイト。船長(故)とその妹によるモーラット虐待系ブログ……ではないはず。
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「……」
「……先生、呼ぶわよ」
鹿苑寺キャンパス、中学2年I組――の前の廊下に立っていた黒い影。
先日話し掛けてきた男。七臥だ。
「……先生、呼ぶわよ」
鹿苑寺キャンパス、中学2年I組――の前の廊下に立っていた黒い影。
先日話し掛けてきた男。七臥だ。
「……まあ、待て。もう一度”ちゃんす”をだな」
「話す事なんて、無いわ」
傍から見れば、先輩に食って掛かる中学生。
実に良くない。私の素行を疑われてしまいそうではあるが、だからと言ってもう一度話す気が起こる訳でもない。
黙って目の前を通り過ぎて玄関へ向かう。
後ろから距離を空けて付いてくる七臥。
上靴を履き替えようと、靴箱を開けると
「手紙?」
丁寧に畳まれた手紙が入っていた。達筆な筆捌きで「茶渡遥 様」と宛名がされている。
これはラブレターの類か、それとも果たし状か(毛筆なのでそちらの方が正解に近そうだ)と疑った。
何も考えず私が疑問を口にすると、表情を変えず七臥が答える。
「ああ、それは俺が書いたものだ。入れたは良いが、読んで貰えず捨てられそうだと思ったので直接――ガッ!?」
グーで殴った。
全力で。
靴箱に手紙なんてシチュエーションに、一瞬ときめいてしまった自分が悔しい。
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あの後少々大袈裟に吹き飛んで気絶した七臥を引き摺り、保健室へ運び入れた。
「あのね。幾ら気に食わないからって……」
「言わなくても、分かってるわ。迷惑かけてごめんなさい、先輩」
「どんな理由かは知らないけれど。私に謝るより、本人に謝りなさいな?」
今日もベッドを陣取る保健室の主。その言葉に従い、もう一つのベッドを覗き込む。
「……」
元々細い目は、起きているのか寝ているのか分からない。
その横で私は小声で呟く。
「ごめんなさい」
「うむ。常識的に、突然人を殴ってはこないと思っていたので油断しただけだ。やはり、きちんと謝るのだな」
起きてるし。
ベッドから降り、服に付いた埃を払い落とすと、こちらを向いて口を開く。
「さて」
「……何よ」
「いや、先日の話の続きをな」
「嫌よ」
「まだ何も言っていないのだが」
「分かるわ」
「そうか」
「嫌なものは嫌よ」
「そうか」
しばし、無言。
「今日は随分とあっさり引くのね」
「戦力差があるのでな。”ほーむぐらうんど”ならともかく、この場で強く出るのは宜しく無い」
くいくいと、保健室の主を指差す。
「私一人なら、実力行使に出ていたわけ?」
「いや、そういう訳では無いんだが……言葉にするのは真に難しいものだ」
顎に手をあて考え込む。
兄を思い出させるその仕草に、苛立ちを感じる。
「悪かった。別の方法を考えるとしよう。では、さらば」
「ちょっと、別の方法って何よ!?」
すたすたと歩き去る七臥を追いかけ、私は保健室を飛び出した。
「ちょっと、扉くらい閉めて行きなさいよー?」
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「……」
「……」
並んで廊下を歩く。かなりの早足で。
何せかなりの身長差だ。相手の二歩が私の三歩以上。やってられない。
「ちょっと、止まりなさいよ」
「うむ?」
「別の方法って何よ」
「一つ目、心変わりするまで待つ。二つ目、他に彼の墓を知る者より聞き出す。出来れば肉親の許可が得たかったのだが、仕方あるまい」
指を折りながら数える七臥。
「アンタね。私が許すと思ってるの?」
「ならば逆に問おう、どうすれば許して貰えるか」
そう聞かれて返答に詰まる。
どうして、許せないのか?
私の兄を殺したのは、土蜘蛛の「巫女」だ。
私達と同じ、人間の能力者。
目の前の土蜘蛛――それも鋏角衆。
許せないのは、どうして?
「ダメよ。やっぱり、ダメ」
「……そうか。まあ、仕方あるまい」
無表情な顔が少しだけ歪む。
玄関で別れを告げると、彼は商店街の方へ消えていった。
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